放下――放下着を放下せよ。
△清貧清閑、竹葉微風。
三時頃、ヱプロン姿でT子さんがやつてきた、今日は酒と肴とを持参して、樹明君にも来て貰つて、ゆつくり飲むつもりだつたが、仕事が忙しくて手がひけないので、お断りにきたといふ、そして酒屋の方へまはらなかつたからといつて、五十銭銀貨一つを机に載せて帰つていつた、彼女もずゐぶん変り者だ、女としては殊に変つてゐる、夫もあり子もあり、そして料理屋兼業の旅館Mの仲居さんだが、ヒス的であることに間違はない(樹明君も妙な人間を其中庵訪問者として紹介したものである)、句作でもすると面白いのだが、まあ、文学好きの程度、或る意味では求道者といつてもよからう。
夕暮はいろ/\の鳥が啼くかな。
つゝましい一日だつた。
六月二日[#「六月二日」に二重傍線]
曇、こんどこそ雨だらう、風が吹きだした。
草花を活ける、草花はどれもいつもよいなあ。
風、風、いやな風がふく、風ふく日の一人はいろ/\の事を考へる、――今日は自殺[#「自殺」に傍点]について考へた。
簡素[#「簡素」に傍点]、禅的生活、俳句生活は此の二字に尽きる。
純情[#「純情」に傍点]と熱意[#「熱意」
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