いな、外郎はうまいな。
とにかく、愉快で、そして憂欝で、妙な一日一夜だつた。
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・白うつづいてどこかに月のある夜みち
・寝苦しい月夜で啼いたはほととぎす
・てふてふとまるなそこは肥壺
・悔いることばかり夏となる
・いつでも死ねる草が咲いたり実つたり
[#ここで字下げ終わり]

 五月三十日[#「五月三十日」に二重傍線]

晴、いよ/\夏が来た。
独臥漫読、出て歩くのもよいが、かうしてゐるのも悪くない。
放下着、放下着の外に何物もない、何物もないのが放下着だ。
夜、樹明来庵、酒はやめて飯をあげる。……
更けてT子さん来庵、庵にも珍風景なきにしもあらず!
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 おたがひにからだがわるくていたはる雑草
・胡瓜の蔓のもうからんでゐるゆふべ
・とんぼついてきてそこらあるけば
   改作追加
・前田も植ゑて涼しい風の吹いてくる
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 五月三十一日[#「五月三十一日」に二重傍線]

曇、一雨ほしい、草も木も人間も。
胡瓜に棚をこしらへてやる、伸びよ、伸びよ、実れ、実れ。
駅のポストまで、戻つてビール、これはT子さんが昨夜のお土産。

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