「マヽ」の注記]て迎田さんから――
ふと思ひ立つて山口へ行く、途上、冬村君に逢ふ、ニコ/\してゐる、その筈だ、今夜が婚礼だといふ、一天雲なし、めでたい/\。
大歳駅附近には芝居の掛小屋があつた、山口駅では旅芸人の群を見た、彼等に幸福あれ。
買物いろ/\――夕顔の苗、蕨、生干の小鰯、小さい食卓、等々――それだけで壱円あまり。
昼食は酒一杯とうどん一杯、むろん千人風呂には入つた、これが目的の大半だから、――温泉はほんたうによい。
九時で行つて三時には戻つた、戻つてみたら、やつぱり敬治君が来てゐた、いつしよに農学校へ、樹明君は婚礼の接待役を頼まれてゐて駄目、二人で駅のI旅館で夕飯、よく食べてよく飲んだ、うまかつた、近来の御馳走だつた、それからMでコーヒー一杯、そこで別れる、敬君は実家へ、私は庵へ戻つてぐつすりと寝た(コーヒー代五十銭はやつぱり惜しかつた、それは買はなければならない米二升代だつたではないか!)。
陰暦四月の十四日、月がよかつた。
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ちつとも雲がない山のよろしさ
・おもひでは山越えてまた山のみどり
刑務所の高い塀から青葉若葉
千人風呂
ま昼ひろく
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