ではないか知ら)、下手糞に料理して食べたが、予期したほどうまくなかつた、私の嗜好はたしかに、腥いもの油濃いものから去つてしまつた、肉食よりも菜食が好きになつてゐる。
鯖の刺身でビール(このビールは昨夜T子さんが持つてきてくれたその一本だ)、ゼイタクだな。
畑の麦刈がはじまつた。
そこらの青梅を十個ばかり盗んで梅焼酎をこしらへた。
昨日植ゑたトマトへ支へ竹をして肥水を与へる、威勢よくそよいでゐる、これでこの夏もトマトのおいしいのが食べられる。
しづかな一日だつた、しづかな私自身でもあつた。
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朝風の青梅をぬすむ五つ六つ
家は青葉の中からアンテナ
・郵便がなぜ来ない朝から雀のおしやべり
・青葉あかるくげつそりと年とつた鏡の顔
・これが今日のをはりの一杯をいただく
[#ここで字下げ終わり]
五月廿五日[#「五月廿五日」に二重傍線]
快晴、身心さわやかである。
途上、兎の仔の可愛いのを見た、豚も仔はさすがにいやらしくない、それはそれとして、彼等はすべて、殺されて食べられるために養はれてゐるのだ、平気で食べる人間はどんな人間か(さういふ人間は二種ある、一は菩薩[#
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