きもの[#「把握すべきもの」に傍点]をしつかりと把握してゐないからだ、自己阿附が感傷的になるからだ、このセンチを解消しなければ、ほんたうの山頭火にはなれない、ほんたうの句は作れない。
野をよこぎつて街をあるいたが、カケで一杯ひつかけたが、そんなことでは駄目だつた、私の身心はなぐさまなかつた、咄。
昼飯最中だつた、誰だか来て案内を乞ふ、出て見て思ひだしたが、福日の恒屋匡介君だつた、まことに意外なお客さんだつた、白船君から私の近況を聞いて訪ねて来たといふ、閑談二時間あまり、後日を約して別れた。
あんまり虫が胡瓜の葉を喰ふから紙袋で囲うてやつた、もう花をつけてゐる、ちと早熟だな。
△煩悩執着を放下することが修行の目的である、しかも修行しつつ、煩悩執着を放下してしまうことが、惜しいやうな未練を感ずるのが人情である、言ひ換へると、煩悩執着が無くなつてしまへば、生活――人生――人間そのものが無くなつてしまうやうに感じて、放下したいやうな、したくないやうな弱い気を起すのである、こゝもまた透過しなければならない一関である(蓬州和尚の雲水は語る[#「雲水は語る」に傍点]、を読んで)。
△有仏のところ止ま
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