れど、間違なく、十中の十まで帰庵するとは信じてゐなかつた、彼も人間である、浮世の事はなか/\思ふやうにはならない、多分帰庵するだらうとは思ふけれど、或は帰庵しないかも知れないと思ふ、だから私は今夜失望しないではなかつたけれども、あんまり失望はしなかつた、ひとりしづかにハムを食べ、ほうれんさうのおひたしを食べて、ひとりしづかに寝た、――これは敬坊を信じないのではない、人生の不如意を知つてゐるからである。
石油がきれたのには困つた、先日来の不眠症で、本でも読んでゐないと、長い夜がいよ/\ます/\長くなるのである。
銭がほしいな、一杯やりたいな、と思つたところでいたし方もありません。
[#ここから2字下げ]
・林のなかへうしろすがたのふりだした春雪(敬治君に)
昼はみそさゞい、夜はふくらうの月が出た(追加一句)
・寝ざめ雪ふるさびしがるではないが
・雪が霙となりおもひうかべてゐる顔
・ひとりへひとりがきていつしよにぬくうねる(旧友来庵)
・梅はさかりの雪となつただん/\ばたけ
雪を見てゐるさびしい微笑
・雪のしたゝり誰もこないランプを消して
恋のふくらうの逢へら[#「へら」に「マヽ」の
前へ
次へ
全47ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング