・蓑虫の風にふかれてゐることも
・風ふくゆふべの煙管をみがく
   追加
・枯野をあるいてきて子供はないかなどゝいはれて
・ゆふ空へゆつたりと春めいた山
[#ここで字下げ終わり]

 二月八日[#「二月八日」に二重傍線]

日が射してゐたが、雪となつた、春の粉雪がさら/\とふる、もう春だ、春だとよろこぶ。
敬坊は県庁へ、私は身辺をかたづける。
朝の紅茶はおいしかつた、樹明君ありがたう。
友からあたゝかいたよりのかず/\、ありがたう、ありがたう。
小鳥よ、猟銃のひゞきは呪はしいかな。
老眼がひどくなつて読書するのにどうも工合が悪い、妙なもので、老眼は老眼として、近眼は近眼として悪くなる、ちようど、彼女に対して、憎悪は憎悪として、感謝は感謝として強くなるやうに。
夕、樹明来、ハムを持つて、――敬坊不帰、ハテナ!
鰹節を削りつゝ、それを贈つてくれた友の心を感じる、桂子さん、ありがたう。
年齢は期待といふことを弱める、私はあまり物事を予期しないやうになつてゐる、予期することが多いほど、失望することも多い、期待すれば期待するだけ裏切られるのである、例へば、今日でも、敬坊の帰庵を待つてはゐたけ
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