つてしまつたらしい。
草が萠えだした、虫も這ひだした、私も歩きださう。
一片の音信が、彼と彼女と私とをして泣かしたり笑はしたりする、どうにもならない私たちではあるが。
街へ出て、米すこしばかり手に入れる、餅ばかりでは困る。
心臓[#「心臓」に傍点]がわるい、心臓はいのち[#「いのち」に傍点]だ、多分、それは私にとつて致命的なものだらう。
どうせ畳の上では徃生のできない山頭火ですね[#「どうせ畳の上では徃生のできない山頭火ですね」に傍点]、と私は時々自問自答する、それが私の性情で、そして私の宿命かも知れない!
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・晴れて風ふく春がやつてきた風で
・日がのぼれば見わたせばどの木も春のしづくして
・む[#「む」に「マヽ」の注記]のむしもしづくする春がきたぞな
・木の実ころ/\ころげてくる足もと
・豚の子のなくも春風の小屋で
・まがればお地蔵さまのたんぽぽさいた
[#ここで字下げ終わり]
三月八日[#「三月八日」に二重傍線]
降つても照つても、晴れても曇つても、風が吹いても、春が来てゐることに間違はない。
日がさすと、雲雀が出てきてあるいてゐる、私も出てあるく。
緑
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