れたり曇つたり、今日も雪だ。
形影問答、年はとりたくないものだのう、さうだのう。……
風呂にはいる、身心やゝ解ける。
夜は宿直室に樹明君を訪ねて御馳走になる、そして泊る。
三月六日[#「三月六日」に二重傍線]
雪、雪、寒い、寒い。
母の祥月命日、涙なしには母の事は考へられない。
終日独居。
友はありがたいかな、私は親子肉縁のゆかりはうすいが、友のよしみはあつい、うれしいかな。
忘れられた酒[#「忘れられた酒」に傍点]、それを台所の片隅から見出した、いつこゝにしまつてゐたのか、すつかり忘れてゐた、老を感じた、その少量の酒をすゝりながら。……
陶然として、悠然として酔ふた、そして寝た、寝た、宵の七時から朝の七時まで寝つゞけた。
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・雪あした、すこしおくれて郵便やさん最初の足跡つけて来た
・死ねる薬はふところにある日向ぼつこ
・水のんで寝てをれば鴉なく
・売れない植木の八ツ手の花
・寒い雨がやぶれた心臓の音
[#ここで字下げ終わり]
三月七日[#「三月七日」に二重傍線]
晴、春風しゆう/\だつたが、午後は曇つて降つた、しかし昨日の雪のとけるといつしよに冬はい
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