線]

夜来の雨がはれて、何となく春だ。
七時の汽車に乗る、九時帰庵、其中一人のうれしさよ。
さつそく樹明君を訪問する、そして方々の借銭を払へるだけ払うてまはる。
酒を食べ鮨を食べる、酔うて寝る。
樹明君来訪、積る話は尽きなかつた。
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・こんなにつかれて日照雨ふる
・うらからはいればふきのとう
・ほろにがいのも春くさいふきのとうですね(緑平居)
 誰も来ない月はさせどもふくらうなけど
 利かなくなつた手は投げだしておく日向
 げそりと暮れて年とつた
[#ここで字下げ終わり]

 二月廿八日[#「二月廿八日」に二重傍線]

片手の生活、むしろ半分の生活[#「半分の生活」に傍点]がはじまる。
不自由を常とおもへば不足なし、手が二本あつては私には十分すぎるのかも知れない、一つあれば万事足る生活がよろしい[#「一つあれば万事足る生活がよろしい」に傍点]。
街へ米買ひに、――食べずにはゐられないことは困つたことだ。
身辺整理、――遺書も認めておかう。
樹明君が病状見舞に来てくれる、酒と下物とを持つて。
死を待つ心、おちついて死にたい[#「おちついて死にたい」に傍点]。
[#
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