戴。
入君は出勤、私は足にまかせて街をあるきまはる、やつぱりこゝもたべものや[#「たべものや」に傍点]が多い、工場町、漁港町はどこでもさうだが。
入雲洞君の喜捨で理髪する、身心さつぱりして、先日来の欝屈がほぐれた。
昨日も今日も(多分明日もまた)行乞は駄目、当分行乞なんか出来さうにない、やつぱり私はまだ平静をとりかへしてゐない。
午後は読書、こんなに我儘ではいけないとも思ひ、これだけ他の供養をうけてはすまないとは思ふのだが。――
夜は句会、とほる君、箕三楼君、入雲洞君、そして私、つゝましい、たのしい会合だつた。
よく寝られたが、よく夢も見た、その夢は苦しい夢だつた、夢は妄想執着のあらはれだ、夢を見ないやうになりたいものだ。
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戸畑漁港(一)
金バス銀バス渡船も旗立てゝ春風に(廿三日奉祝)
・海から風はまだ寒い大福餅《ダイフク》をならべ
・クレーンおもむろに春がきてゐる空
やたらに汽笛が鳴ると[#「と」に「マヽ」の注記]つしりと舫つた汽船《フネ》
・今日がはじまる七輪の石炭《スミ》が燃えさかる
・バツト吸ひきれば重い貨物で
朝から安来節《ヤスキ》で裏は鉄
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