いかな、雪の小鳥も雪の枯草も。
わらやふるゆきつもる[#「わらやふるゆきつもる」に傍点]――これは井師の作で、私の書斎を飾る短冊に書かれた句であるが、今日の其中庵はそのまゝの風景情趣であつた。
ふりつもる雪を観るにつけても、おもひだすのは一昨年の春、九州を歩いてゐるとき、宿銭がなくて雪中行乞をしたみじめさであつた(如法の行乞でないから)、そのとき、私の口をついて出た句――雪の法衣の重うなりゆくを[#「雪の法衣の重うなりゆくを」に傍点]――その句を忘れることができない。
裏山のうつくしさはどうだ、私はしん/\とふりしきる雪にしんみりと立つてゐる山の雪景色に見惚れた。
地下足袋を穿いて、尻からげで、石油買ひに街へ出る、チヤンチヤン(このあたりではソデナシといふ)を着たおぢいさんの姿には我ながら吹きだしたくなつた、そして、アーブラ買ひにチヤア買ひに、といふ童謡を思ひだして泣きたくなつた。
雪の日の庵はいよ/\閑寂なり、閑寂を愛するは日本人老来の伝統趣味なり、私は幸福なるかな。
樹明君から聞いて。――
Tさんはとう/\死んださうな、葬式には私も列したいと思ふ、読経回向しなければならない、Tさん
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