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 七月十三日[#「七月十三日」に二重傍線]

朝月はよいな、蛙のうたもよいな、キヤベツはうまいな。
桔梗が咲いた、虫の声がしんみりしてくる。……
網代笠を修繕する、いつぞや緑平老は、ずゐぶん破れましたねといつた、樹明君は、新らしいのを買つてはどうですかといふが、物を活かせるだけ活かすのが禅門の教であり、同時に新らしい笠をかぶるよりも一杯やりたいのが私の煩悩でもあり、熱心に紙を張り渋を塗つて役立てるのである、このところ一句あるべくして一句もなかつた。
△空罎[#「罎」に「マヽ」の注記]を焼酎に代へてのんべい[#「のんべい」に傍点]虫をなだめた、さりとてははかない酒徒なるかな、だ。
蝉(わし/\)大蝉(じん/\)が暑苦しく啼きだした。
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   追加
・月あかり蜘蛛の大きい影があるく
・月夜の道ばたの花は盗まれた
・昼ふかく草ふかく蛇に呑まれる蛙の声で
・待ちぼけの、寝るとする草に雨ふる
・待つでもない待たぬでもない雑草の月あかり
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焼酎の御利益でぐつすり昼寝、覚めてから水をしたうて椹野川へ行く、何と河童少年少女の泳
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