たり私もわたる涼しい水
・重荷おろすやよしきりのなく
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小豆飯と菓子とのおせつたい[#「おせつたい」に傍点]をいたゞいた、まことに久しぶりのお接待!
信心遍路[#「信心遍路」に傍点]さんが三々五々ちらほらと巡拝してゐる、わるくない風景である、近代風景ではないけれど。
女学生が二三人づゝ、自転車に乗つて、さつさうとして走つてくる、これは近代風景だ、そしてこれもわるくない風景だ。
村の処女会の人々がにぎやかに神社の境内を洒掃してゐる、辻々には演習兵歓迎の日の丸がへんぽんとひるがへつてゐる、これもまたわるくない風景だ。
△土手の穂すゝきがうつくしかつた、旧家には凌宵花、野には撫子、青田風があを/\と吹く。
徃復七里、帰途の暑さはこたえた、しかし、のんべんだらりと坐つてゐるよりも歩いた方がたしかに身心をやしなふ。
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・吸はねばならない血を吸うて殺された蚊で
・とまればたたかれる蠅のとびまはり
・炎天の雲はない昼月
・草すゞし人のゆくみちをゆく
・炎天の機械と人と休んでゐる
・木かげたゝへた水もほのかに緋鯉のいろ
・茄子胡瓜胡瓜茄子ばかり食べる涼しさ
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