しろさも家いつぱいの日かげ
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 七月十二日[#「七月十二日」に二重傍線]

月明に起きて蛙鳴を聴く、やがて蝉声も聴いた。
玉葱といつしよに指を切つた、くれなゐあざやかな血があふれた、肉体の疵には強い私だが、疵の痛みには弱い私だ。
生死一如、物心一枚の境地――それは眼前脚下にある、――それが解脱だ。
五時半出立、九時から十二時まで秋穂行乞、三時半帰庵。
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      米 二升二合         酒   弐十銭
今日の所得          今日の買物
      銭 二十六銭         ハガキ 三銭
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この二合の酒はとてもうまかつた、文字通りの甘露[#「甘露」に傍点]だつた。
秋穂はさすがに八十八ヶ所の霊場だけに、殊に今日は陰暦の二十日だけに、お断りは殆んどなかつた。
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・朝月まうへに草鞋はかろく
・よち/\あるけるとしよりに青田風
・朝月に放たれた野羊の鳴きかはし
・田草とる汗やらん/\として照る
・木かげ涼しくて石仏おはす(改作)
・炎天の虫をとらへては命をつなぐ
・一人わたり二人わ
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