くとも現実は。
もし人生が割り切れるものならば、それを割り切るものは恋[#「恋」に傍点]と麻酔[#「麻酔」に傍点]と、そして。――
底力のある生活を生活したい。
私から酒をのぞいたら何が残る!(と私はしば/\自問自答する)句が残るだらうか?
酒が何々させた……といふ言葉は何といふ卑劣だらう。
米がなくなつたから餅を食べてゐた、餅がなくなつたから蕎麦の粉を食べてゐた、蕎麦の粉がなくなつたら、さて何を食べようか、野菜でも食べるか、水でも飲むか、その時はその時、明日の事は明日の事にしてゐたら、彼氏が米をくれた、酒までくれた、それはまことに天来の賜物ともいふべきであつた。
水と空気とがタダだからありがたい。
私はだん/\アルコール中毒になりつゝあるらしい、すこし手がふるへだした、アルコールがきれると憂欝を感じる。
自然的自殺[#「自然的自殺」に傍点]、かういふ事実はザラにある、放哉の死もさうだつた、私もさうなりつゝあるらしい。
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・どこやらに水の音ある落葉
 水音をたづねて落葉のなかへ
・たたへて冬の水のすこし濁り
・太陽がのぞけば落葉する家や
 たんぽぽはまだ咲かない雨
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