冬雨
     (述懐)
   煙草のけむり
   五十年が見えたり消えたり
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 一月八日[#「一月八日」に二重傍線]

晴、すこし胃が痛む、昨夜の飲みすぎ食べすぎのためだらう。
久しぶりに――八日ぶりに入浴した、二銭五厘の享楽である、からだもこゝろもさつぱりした。
△無理に垢をおとすな、無理におとさうとすると皮をむぐぞ。
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 楢の枯葉が声だして日をまねくやうだ
・風を、ぬかるみを、売りにゆく米二俵
 茶の花や蜂がいつぴき
 雑草伸びたまゝの紅葉となつてゐる
 虫がおしつぶされてゐる冷たいページ
・枝をはなれぬ枯れた葉と葉とささやく
・風がきて庭の落葉を掃いていつた
 泥足袋洗ふにぽつとりどんぐり
・落葉踏みにじりどうしようといふのか
[#ここで字下げ終わり]

 一月九日[#「一月九日」に二重傍線]

徹夜した、といふよりもあれこれ考へてゐるうちに夜が明けてしまつたのである。
盥に薄氷が張つてゐる、うらゝかな陽が射してゐる。
敬坊からの手紙はあまりにさびしくかなしくした、敬坊よ、しつかりしてくれ、しつかりやつてくれ。
麦飯を食べることに
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