さうなる外はない、それが時代おくれであらうと、何であらうと。
何のための出家ぞ、何のための庵居ぞ、落ちつけ、落ちつけ。
「身のまはり」
三日の夜から今朝まで考へつゞけた、そして或る程度の諦観を握ることが出来たので、掃いたり拭いたり、身辺を整理した。
あるのは命だけだ――まだ命だけは残つてゐる。
さびしい昼餉だつた、ソバノコだけだつた。
△やつぱり、昨日を思はず明日を考へず、今日は今日を生きる、これがやつぱり、私の真の生活である。
夕方ひよつこり樹明君来庵、私が落ちついてゐるので、それが彼にはさびしく、さびしすぎて感じられたのだらう、五十銭玉二つを机上に載せて置いて、さう/\と帰つていつた。
この壱円はほんとうにありがたかつた、私は樹明大菩薩を同じ道の友として持つてゐることを喜ぶ。
さつそく店まで出かけて、米を買ひ醤油を買ひ焼酎を買ひ、煙草を買つた、そしてすつかり楽天老人となつた、ノンキナ ヲヂサン バンザイ!
八日ぶりに飯を炊く、それは明けてから最初の御仏飯でもあつた。
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・ひとりで酔ふたら雨が降りだした
 雨がふる逢ひたうなる雨が
・酔へばいろ/\の声がきこえる
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