なりきれないのはみじめだ。
餅もなくなつたから蕎麦の粉を食べる。
今日がほんとうの新年だつた、私にとつては。
しづかなよろこび。
△まづしくともすなほに、さみしくともあたゝかに。
自分に媚びない、だから他人にも媚びない。
気取るな、威張るな、角張るな、逆上せるな。
△腹を立てない事、嘘をいはない事、無駄をしない事。
私は執着を少くするために、まづ骨肉と絶縁する、そしてその最初の手段として音信不通にならう(賀状なんかもさういふ方面へは一切出さなかつた)。
私は私を理解してくれる、そして私が尊敬する友といつしよに、友に支へられて生きよう、生きられるかぎりは。
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・枯枝の空ふかい夕月があつた
 凩の火の番の唄
 雨のお正月の小鳥がやつてきて啼く
 空腹かかへて落葉ふんでゆく
・枯木ぱちぱち燃える燃える
 誰も来ない夜は遠く転轍の音も
 宵月に茶の花の白さはある
・三日月さん庵をあづけます
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 一月七日[#「一月七日」に二重傍線]

寒の雨、考へさせる雨だ。
△一杯の酒は甘露だつた、百杯の酒は苦汁《ニガリ》となつた。
清貧に安んじて閑寂を楽しむ、
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