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一月廿八日[#「一月廿八日」に二重傍線]
ゆつくり朝寝、けふもまた雪か。
お茶はうまいが食べる物がない、あまり食慾もない、お仏飯をさげていたゞく(十粒ぐらいしかないけれど、それで十分だつた)。
古新聞と襤褸を屑屋へ売つて、少しばかり金が出来た。
米一升、酒屋へ、肴屋へ二十四銭払ふ。
彼――某酒店の主人――の心をあはれむ、いやしい人間[#「いやしい人間」に傍点]だ。
待つてゐた敬坊が来た、県庁へ出張する彼を駅まで見送つて行く、そしてちよつぴりやる。
それから、冬村君の仕事場に立ち寄つて、いつぞや押売してをいた厚司の代金を受取る、それで払へるだけマイナスを払ふ、だいぶさつぱりした。
夕方、樹明来、鰯で一杯やる、今夜こそは私が奢つたのだ、のう/\した気持だ。
敬坊が木炭を買うてくれたのはありがたかつた。
鰯、鰯、鰯ほどやすくてうまい魚はない、感謝する。
例によつて、樹と山と二人はインチキバーでホツトウイスキー、こゝろよく酔うてこゝろよく別れた。
『鉄鉢の句』
こゝまでくれば、もう推敲といふやうなものからは離れる、私はしゆくぜんとして、因縁の熟するのを待つばかりである。
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