うだ)はよいなあと思ふ、私の短冊掛には井師の句がはさんである、『和羅也布流遊支津毛留』
雪の大根をぬいてきて、豚の汁で煮る、火吹竹でふう[#「ふう」に傍点]/\やつてゐるところへ、樹明君がひよつこり、やあ、ありがたいな。
樹明君は苦労人である、よい意味での、――だから、今、彼がさげてきた包が、木炭とソーセージであつても、ちつとも不自然でない、わざとらしくない、ちやんとイタについてゐる。
ふたりの財布をはたいて一升買ふ、最後の一滴まで飲んでしまつてから、送つたのやら送られたのやら、Yへ、彼氏彼女等としばらく話して、樹明君をわかれ道まで送つて、そしてKへ、そこでまた一杯、戻つてきたのは二時近かつたらう。
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くらがりへふみだした足のさむい私で
・雪の夜の大根をきざむ
樹明君に八句
よろこびを持つてきたあんたと空を仰ぎ
あんたのよろこびの水音もきこえる
・雪あしたやす/\うまれたといふか
雪ふるけさは君の子のうまれた日
・産湯すてる雪のとける
・雪や山茶花やむすめがうまれた
雪のなか産声のたかしも
雪をふんでよろこびの言葉をおくる
寝ざめしん/\雪ふり
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