、指を傷づけるぐらゐは何でもない。
夕方、樹明来、久しぶりに一杯やる、別れてからIさんを訪ねてまた一杯、それからHへ、ずゐぶん酔うて戻つたのはおそかつたが、そのあたりは前後不覚だつたが、悪い事はしなかつた、善哉々々。
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・つめたさの歯にしみる歯をいたはらう
・冬山へつきあたり焚火してある[#「ある」に傍点]
・寒い水からいもりいつぴきくみあげた
 寒い寒い指を傷づけた
・たま/\逢へて火を焚いて
 火を焚いて来るべきものを待つ
 鴉ないて待つものが来ない
 けさは郵便がおそい寒ぐもり
・新聞つめたし近眼と老眼がこんがらがつて
・冬草もほどよう生えて住みなれて
・くもりさむい肥をあたへるほうれんさう
[#ここで字下げ終わり]

 一月廿二日[#「一月廿二日」に二重傍線]

冷たい、昨夜の酒が残つてゐる、飲まずんばあるべからずぢや、うまいな、何といつても酒はうまいものである、利害を超越して。
昨日のお菜は三度とも菜葉と大根とちしやだつたが、今日は鰯の御馳走があつた、十尾六銭、おばさんから借りて。
新聞屋さんが号外を持つてきてくれた、※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4
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