がこぼれて一人(枇杷)
・はなれて遠いふるさとの香を味ふ
                (松茸)
・その香のしたしくて少年の日も
 家を持たない秋ふかうなつた
 ほのぼの明けてくる土に咲けるもの(十薬)
[#ここで字下げ終わり]

 一月廿日[#「一月廿日」に二重傍線] 大寒入。

のび/\と寝たから私は明朗、天候はまた雪もよひ、これでは行乞にも出かけられないし、期待する手紙は来ないし、さてと私もすこし悲観する、それは何でもない事なのだが。
一茶会から「一茶」、酒壺洞君から仙崖の拓字が来た。
△すべてを自然的[#「自然的」に白三角傍点]に、こだはりなく、すなほに、――考へ方も動き方も、くはしくいへば、話し方も飲み方も歩き方も、――すべてをなだらかに、気取らずに、誇張せずに、ありのまゝに、――水の流れるやうに[#「水の流れるやうに」に傍点]、やつてゆきたいと痛感したことである。
鼠もゐない家[#「鼠もゐない家」に傍点]――と昨夜、寝床のなかで考へた、じつさい此家には鼠がやつてこない、油虫も寒くなつたので姿をかくした、時々その死骸を見つけるだけだ。
△苦茗をすゝる朝の気持は何ともいへない
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