なすべからずぢや。
あんまり寒いから、餅粥をこしらへて腹いつぱい詰めこんだら、すつかりあたゝかくなつた。
雪景色はまことにうつくしい、枝や葉につもつた雪、ことに茶の木、松の木、南天の雪、とりわけて柿の裸木にところ/″\つもつた雪、柿がよみがへり、雪がいき/\とする、草の芽がすこし雪の下からのぞいてゐるのはいぢらしい。
△雪の風情は雪を通して観る自分の風姿である。
樹明君から来信、子がうまれ句がうまれる、祝祷々々。
地下足袋はいて雪風にふかれて、駅のポストまで、樹明君へよろこびのはがきをだすために。
帰途、風邪をひきさうなので、例の店に寄つて一杯ひつかける、むろんカケで。
雪見に酒がないのは、かへつて雪をよく見ることができる、料理にダシや味の素をいれないとき、その物のうまさがわかるやうに。
午後、態人が樹明君の手紙を持つて来た、これは意外な好消息だつた、待つものは来ないで待たないものが来た、何はともあれ、ぜひはやくいらつしやい、一升さげてよ、待つてる/\。
△雪のしづけさ(雪のさびしさではない)、雪のしゞま[#「雪のしゞま」に傍点]を感じる、それは自己観照である。
わらやつもる雪(庵もさうだ)はよいなあと思ふ、私の短冊掛には井師の句がはさんである、『和羅也布流遊支津毛留』
雪の大根をぬいてきて、豚の汁で煮る、火吹竹でふう[#「ふう」に傍点]/\やつてゐるところへ、樹明君がひよつこり、やあ、ありがたいな。
樹明君は苦労人である、よい意味での、――だから、今、彼がさげてきた包が、木炭とソーセージであつても、ちつとも不自然でない、わざとらしくない、ちやんとイタについてゐる。
ふたりの財布をはたいて一升買ふ、最後の一滴まで飲んでしまつてから、送つたのやら送られたのやら、Yへ、彼氏彼女等としばらく話して、樹明君をわかれ道まで送つて、そしてKへ、そこでまた一杯、戻つてきたのは二時近かつたらう。
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くらがりへふみだした足のさむい私で
・雪の夜の大根をきざむ
樹明君に八句
よろこびを持つてきたあんたと空を仰ぎ
あんたのよろこびの水音もきこえる
・雪あしたやす/\うまれたといふか
雪ふるけさは君の子のうまれた日
・産湯すてる雪のとける
・雪や山茶花やむすめがうまれた
雪のなか産声のたかしも
雪をふんでよろこびの言葉をおくる
寝ざめしん/\雪ふりしきる
お正月の雪がつみました
雪の鴉のなが/″\ないて
雪のまぶしくひとりあるけば
・茶の木の雪をたべる
わが庵は雪のあしあとひとすぢ
雪ふかうふんで水わくところまで
雪あしたくみあげる水の澄みきつて
・わらやしたしくつららをつらね
雪の晴れてうれしい手紙うけとつた
・よう燃える火でわたしひとりで
・雪から大根ぬいた
雪風、大またであるく
大根うまい夜のふけた
また樹明君に
・産後おだやかな山茶花さいてたか
[#ここで字下げ終わり]
一月廿七日[#「一月廿七日」に二重傍線]
よい朝、つめたい朝、すこし胃がわるくて、すこしにがい茶のうまい朝(きのふの破戒――シヨウチユウをのみ、ウイスキーをのんだタタリ)。
何もかもポロ/\だ、飯まで凍てゝポロ/\。
けふも雪、ちらりほらり。
さすがの私も今日ばかりは、サケのサの字も嫌だ、天罰てきめん、酒毒おそるべし/\、でも、雪見酒はうまかつた/\。
また、米がなくなつた、しかし今日食べるだけの飯はある、明日は明日の風が吹かう、明日の事は明日に任せてをけ――と、のんき[#「のんき」に傍点]にかまへてゐる、あまりよくない癖だが、なほらない癖だ。
自製塩辛がうまかつた。
午後はだいぶあたゝかくなつた、とけてゆく雪はよごれて嫌だ。
△満目白皚々、銀※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1−88−72]盛雪、好雪片々不落別処(すこし、禅坊主くさくなるが)、などゝおもひだす雪がよい。
遺書をいつぞや書きかへてをいたが、あれがあると何だか今にも死にさうな気がするので(まだ死にたくはない、死ぬるなら仕方もないが)、焼き捨てゝしまつた、これで安心、死後の事なんかどうだつてよいではないか、死後の事は死前にとやかくいはない方がよからう。
原稿も書き換へることにした、どうも薄つぺらなヨタリズムがまじつて困る、読みかへして見て、自分ながら嫌になつた、感興のうごくまゝに書いてゆくのはよいが、上調子になつては駄目だ。
△奇績[#「績」に「マヽ」の注記]を信じないで、しかも奇績を待つてゐる心は救はれない、救はれたら、それこそ奇績だらう。
自己陶酔――自己耽溺――自己中毒の傾向があるではないかと自己を叱つてをく。
いちにち、敬坊を待つた(今明日中来庵の通知があつたから)。
焚火するので、手が黒く荒れてきた、恐らくは鼻の穴も燻ぶつ
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