時々曇る、私の身心のやうに。
百舌鳥が啼く、その声もだいぶ鋭くなつたやうだ。
火吹竹[#「火吹竹」に傍点]をこしらへる、何といふ時代後れ!
後の山路を歩く、萩が多い。
大根の芽生はうれしい、自分で耕して自分で播いた、それが芽を吹いた、ありがたいやうな、すまないやうな気持。
[#ここから2字下げ]
・ゆふべのさみしさはまた畑を打つ
[#ここで字下げ終わり]

 十月四日

咳入つて覚める、声が嗄れて胸の奥が鳴る、罰は甘んじて受けなければならない。
出勤前の樹明兄、私の安否を心配して一寸来庵、その温情かたじけなし。
今日は殺生デー[#「殺生デー」に傍点]ともいひたい日だつた、早朝、座敷で百足を殺した、掃除の時に蝶々を殺した、井戸からイモリをくみあげた、また、蛙をとびこませた、庭で蜂を殺した、カマキリを殺した、畠では蚯蚓、※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]、ケラ、を殺した。……
殺さないまでも、彼等の夢を驚かして気の毒だつた、人間が土を耕やすのは、ケラにとつては安眠妨害、蚯蚓にとつては家宅侵入だらう、人間は時として虫にも劣つてゐる。
帰宅前の樹明兄、先夜写していたゞいた写真を持つて来
前へ 次へ
全92ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング