庵、よく写つてゐる、あまりに私らしい、同時にあまりに私らしくない写真でもあつたが、とにかく、禅坊主としての私、庵主としての私は出てゐる、感謝々々。
藁麦の花はいゝ、声が嗄れて話すことがむつかしくなつた、何だかさみしくなる。
さういふ私を気の毒と思つてだらう、樹明兄が乏しい弗入から五十銭玉一つをおいていつた、ありがたしとばかり、すぐ駅通りまで出かけて、焼酎と豆腐とを買うて戻つて、ゆつくり、しんみり、やりました、うまかつた、ありがたかつた、酔うた、酔うた、いつとなく前後不覚になつてしまつた。
改めて御礼をいふ、南無樹明如来、焼酎大明神、豆腐菩薩。……
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・三日月、おとうふ買うてもどる
・新道まつすぐにして三日月
・夜《ヨル》へ咳入る(改作)
わたしがはいればてふてふもはいる庵の昼
・ひとりで酔へばこうろぎこうろぎ
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十月五日
めづらしく朝寝した、もう六時に近かつた、それほど私は心地よく酔うたのである。
柿の落葉はわるくない、掃いてゐるうちに、すぐまた落ちる、それがかへつてよろしい、掃き寄せて、その樹、その実を仰ぐ気持はうれしい。
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