ばかりちらしてをく
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 十二月十二日

雨となつてあたゝかくなつた、山口行はオヂヤンになつたが仕方ない、あすはよい日だらう、まあ、よい日としてをかう。
鴉啼がよくない、何だか気にかゝる、人の身も自分の身も。
けふもよくしぐれる、午後は風が出てさみしがらせた。
あれこれと用事がある、今月は――先月は気分が悪くて怠けたが――句稿を層雲社へ送るべくまとめた。
夜はさみしかつた、必ずしも酒がないためばかりではない。
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 ほほけすゝきに風がある紅葉ちりつくし
・きものがやぶれる音をゆく霜朝
・誰も来ない茶の花がちります
・お茶漬さら/\わたしがまいてわたしがつけたおかうかう
・もう冬がきてゐる木きれ竹ぎれ
・もう凩の、電燈きえたりついたり
・月の凩の菜葉のかげ
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 十二月十三日

曇后晴、山口行、寒かつた、いや冷たかつた、寒いといふのは誰もがいふ、冷たいのは寒さを身に感じたから。
初雪、屋根にも畠にも、もつともちよんぼり初雪らしく。
山口へ行つた、Sさんの奥さんに壱円五十銭借りて(売るべく持つてゐた本弐冊をあづけて)、そし
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