こほろぎのとぶ
 夜の奥から虫があつまつてくる
[#ここで字下げ終わり]

 九月三十日

憂欝な一日だつた。
土を耕やして大根を播いた、土のなつかしさ、したしさ、あたゝかさ、やはらかさ、やすけさ、しづけさ。……
ぼつ/\稲刈がはじまつた、豊年満作だ。
門外不出、もちろん酒なし。
暮れてから樹明兄来庵、野菜をたくさんいたゞいた、これだけあれば当分は安心してゐられる、野菜ばかりぢやない、別にまた一升寄贈だ、涙の出るほどうれしかつた。

 十月一日

寝苦しくて三時にはもう起きてゐた、御飯炊も朝の勤行も、何もかもすんだのにまだ明けない。
天地高朗、日月清明の気候だ。
今日も畠いぢり、二畝耕やした、石ころ、草の根を除くのはかなり骨が折れるけれど愉快だ、ひともじ[#「ひともじ」に傍点]を植ゑつけた。
昨夜のお布施で買物をする、私がどんなにつゝましく買物をしたか、左の通りだ。――
[#ここから1字下げ]
一、十銭 醤油二合  一、九銭 ハガキ六枚
一、七銭 味噌百目  一、十八銭 焼酎一合五勺
一、二銭 蠅取紙一枚 一、三銭 湯銭
一、八銭 上草履一足 一、十銭 玉葱代
一、五銭 辛子粉   一
前へ 次へ
全92ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング