引留められるのを断つて二時の夜行列車で防府まで、もう御神幸はすんでゐた、夜の明けるまで街を山を歩きまはつた、此地が故郷の故郷だ、一草一木一石にも追憶がある。
佐かた利園はやつぱりよかつた、国分寺もよかつた。
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石へ月かげの落ちてきた
□
街はお祭の、せつせと稲を刈つてゐる
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十一月十三日
ます/\憂欝になる、白船居でめぐら[#「ら」に「マヽ」の注記]れた快活が防府でまたうばはれてしまつたのだ。
篤君に逢つたのはうれしかつた、そして東路君に逢へなかつたのは、遺憾といふよりも不快だつた。
一時の汽車で戻つた、戻つたことは戻つたけれど、ぢつとしてゐられないから、街へ出かけてシヨウチユウを呷つた、そして脱線しえられるだけ脱線したらしい(意識が朦朧としてゐたから)。
十一月十四日――十七日
ブランク、強ゐて書けば、降つたり晴れたり、寝たり起きたり、泣いたり笑つたり。
十一月十八日
柿はすつかり葉をおとした、裸木もそうごんなものだ。
茶の花ざかり、枇杷の花ざかり。
十一月十九日
どうにもかうにもやりきれないから、一升借りて
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