よろしい、よき食慾はあつたけれど、よき睡眠はなかつたから。
今日は立冬、寒い、寒い、洟水が出るから情ない、冬隣から初冬へ。
晴れてはあたゝかく、曇れば寒い。
樹明君からサクラ到来、そのためでもあるまいが、少し跳ねて少しワヤ!

 十一月八日

やつぱり跳ねすぎた、――飲む、寝る、――そして。
盃の焼酎に落ちて溺れて蠅が死んだ、それは私自身の姿ではなかつたか。

 十一月九日

ブランクだ、空白のまゝにしてをかう。
十日の分もおなじく、さうする外ない。

 十一月十一日

星城子君から小包が来た、今春預けて置いた古袷を送つて下さつたのである、これでやつと冬着をきることが出来る。
この一封を見よ[#「この一封を見よ」に傍点](山頭火様御煙草銭として若干金添入してあつた)何といふあたゝかい星城子君の志だらう、剣道四段の胸に咲いた赤い花ではないか。

 十一月十二日

どうしても身心がすぐれない。
昨日、星城子君から戴いたゲルトを汽車賃にして白船居を訪ねる、いつ逢つてもかはらない温厚の君士[#「士」に「マヽ」の注記]人、すこし快活になつて、夜は質郎居で雑草句会、いつものやうに与太もとばせない、
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