ち/\あるいてゐる、子蜘蛛がおほぜいで網を張るおけいこをしてゐた。
午後一浴(一杯がないのは残念々々)、もうトンビをきてゐる人もあるのに私はまだ単衣だ、KSよ、早く送つてちようだい。
酒屋さんが空罎とりにやつてきた、酒のことを話し合ふ、酒では私も専門家の一人だ(酒客としても、またかつては同業者としても)、今日の会話はこれだけ。
日暮頃から、やうやう雨になつた、慈雨といつてよからう、野良仕事には困るだらうけれど、水不足には一層困るから。
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・山をあるけば木の実ひらふともなく
・水くんでくる草の実ついてくる
 森はまづいりくちの櫨を染め
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夜はしづかだつた、雨の音、落葉の音、そして虫の声、鳥の声、きちんと机にむいて、芭蕉句集を読みかへした、すぐれた句が秋の部に多いのは当然であるが、さすがに芭蕉の心境はれいろうとうてつ、一塵を立せず、孤高独歩の寂静三昧である、深さ、静けさ、こまやかさ、わびしさ、――東洋的、日本的、仏教的(禅)なものが、しん/\として掬めども尽きない。

 十一月七日

とう/\朝寝坊になつてしまつたが、眠られないより眠られる方が
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