に、樹明君が帰宅の途上、立寄つたらしい、いつぞや無心しておいた原稿紙がちやんと机の上に持つてきてある、そして汽車、自動車の新らしい時間表が襖に貼りつけてある、多謝々々。
今夜は久しぶりおいしい水をのんだ、F家の井戸の水はよい水だ。

 十一月二日

昨夜は割合によく眠れたので、今朝の眼覚めもわるくない、お天気は照つたり曇つたり、晴れた方が多く温かだつた。
夢窓国師夢中問答集を読む。
やつと酒壺洞君から鉢の子[#「鉢の子」に傍点]到着、これは寄贈用として。
今日も出歩かずにはゐられなかつた、早昼飯を食べてから、西へ西へとたどつた、道が時々なくなるので、引き返したり、がむしやらに雑草を踏み分けたりして、やうやく小山を一つ越えて、嘉川へ着いた、こゝにもおもひでがある(周中三年生として下関へ修学旅行途上の一泊地だつた、等、等)、そしてそこから旧国道を戻つて来た、土ほこりには閉口した、そのために、だん/\憂欝になつて、とう/\頭痛がしだした。
夕方、樹明君来庵、茶をのんで、粥をたべて、しばらく話しあつた、君も近来禁酒で(疾病のために)、そして私が怠慢なので(三八九の原稿も書かないから)、何となく
前へ 次へ
全92ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング