五勺      一、五銭 醤油二合
  (此誤記は不用意の皮肉だ) 一、三銭 端書弐枚
 〆金弐拾銭也 差引残金なし
[#ここで字下げ終わり]
この報告書の具体的記述はかうである。――
正午のサイレンをきいてからぶらりと出た、まづ風呂にはいつた、まだ風呂が沸いてゐないので、待つ間におかみさんから針と糸とを借りて、ほころびを縫ふたも一興、それから例のをギユツ、まことにこれは一週間振の一浴であり、一週間振の一杯(正確にいへば半杯)だつたのである、そして今日は椹野川にそうて溯つた、この道にもいろ/\のおもひでがある、身にあまる大金をふところにして山口の税務署へいそいだこともあれば、費ひ果して二分も残らず、ぼう/\ばく/\としてさまよふたこともある、そんな事を考へたり、あちこちの山や野や水を眺めて、とう/\大歳駅まで来てしまつた、そして新国道をひきかへしたが、かへりついたのは薄暗い頃であつた。……
朝も三平汁、昼もおなじ三平汁(三平汁は樹明直伝のもの、朝も三平、昼も三平、そして晩も三平だつたら、合して九平、クヘイ、クヘイ)、晩はにんぢん葉の煮付、何を食べてもうまい、此点に於て、私はほんとうに幸
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