て敬治坊は耽溺沈没したのだつた、関の鴉に笑はれたらしい、私へは、叱られるから手紙を出さないと書いてある、私には彼を叱る資格はないが、彼を叱るだけの熱意を私が持つてゐることを知つてくれてゐるのはうれしい、お互にもう過去をすつかり清算してもよい、いや、さうしなければならない時期になつてゐる。
敬治坊、これからは、うまくない酒、悔をのこすやうな酒は、お互に断然あほらないことを誓約しようぢやないか、そしてそれを断然実行しようぢやないか、敬治坊!
物の声といふものはおもしろいものである、けさも、鶏の鳴声や汽車の音響によつて、もう夜明けにちかいことを知つた、大気の関係で、同一の音がいろ/\に響くものである、そしてけさはまた風の工合で、駅売の触声がよく聞えた、べんとう、べんとう、――だが、ビール、正宗は聞きとれなくて仕合だつた。
私の無一文を気の毒がつて、樹明君が彼も此頃乏しい銭入から風呂銭として、二十銭おいていつた、私はその十銭白銅貨二つを握つて、考へた。――
これは樹明君へ与へる山頭火報告書である。――
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一 金三銭 入浴料一回分 一、四銭 撫子小包
一 金五銭 焼酎
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