をやつてるさうで、鰡が上つてくる、それを網打つべく二三人の漁夫が橋の上で待つてゐる、見物人が多い、私の[#「の」に「マヽ」の注記]その一人となつて暫らく見物した、そして労れたので、そこからひきかへした、名田島の中央を横ぎつて、駅の南方をまはつて帰庵したのは夕方だつた、それから水を貰ふやら、粥を煮るやら、お菜をこしらへるやらするうちに、すつかり暮れてしまつた。
出来秋の野良仕事はまことにいそがしい、その間をぶらつく私は恥づかしかつた、私はまつたく不生産的人間だ、社会の寄生虫だ!
夜は早寝した、明日は朔日だ、よし、明日からは働かう。
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・水音の秋風の石をみがいてゐる
 水はたたへて秋の雲うつりゆく
   ざれうた一首
 何もかもウソとなりたる世の中に
  マコトは酒のうまさなりけり
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 十一月一日

曇、早起、御飯を食べて、御経をあげて、さて本でも読まうかといふところへ樹明君が長靴をひきずつてきて、ひよつこり顔をだした、顔色がよろしい、今朝は部落の早起会で(彼は青年団長である)仕事をすましてそのまゝ来たといふ、敬治坊からの手紙を見せる。
果し
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