た、そして今日まで一文なしで暮らしてきたのである(米とか味噌とは[#「とは」に「マヽ」の注記]別にして)、酒も暫らく飲まない、飲まうにも飲めない(もつとも、その間に樹明君に三度ほど御馳走になつた)。
夜になつて風が出て、木の葉がしきりに落ちる、落葉は見て[#「見て」に傍点]よりも聞いて[#「聞いて」に傍点]さみしい、また聞くべきものだらう。

 十月卅一日

昨日よりもよいお天気で。――
そして私はいら/\して、とてもぢつとしてはゐられないので、十時過ぎ、冷飯を掻きこんで、ぶらりと外へ出た、さて何処へ行かうか、行かなければならないところもなければ(あることはあるけれど行けない)、行きたいところもない、まあ、秋穂方面でも歩かうか。
途中、駅のポストへ出したくない――だから同時に出してはならない手紙を投じた。
椹野川に沿うて一筋に下つてゆく、潮水に泡がういて流れる、秋の泡[#「秋の泡」に傍点]とでもいはうか、堤防には月草、撫子が咲き残つてゐる、野菊(嫁菜ではない)がそここゝに咲いてゐる、砂ほこりが足にざら/\して何だか物淋しい、やたらに歩いて入川の石橋に出た、海は見えないけれど、今日は立干
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