さびしい、樹明君(老の字は遠慮しよう)がおいていつたバツトをふかしながら物思ひにでもふける外ない。
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・お留守しんかんとあふれる水を貰ふ
・待つて待つて葉がちる葉がちる
・あるくほかない草からぴよんと赤蛙
□
・つぎ/\にひらいてはちる壺の茶の花
・秋の夜のどこかで三味線弾いてゐる
・葉がちるばかりの、誰もこない
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十月卅日
けさは早かつた、そしてとてもいゝお天気だつた、文字通りの一天雲なし、澄みきつて凛とした秋だつた。
かうしてゐると、ともすれば漠然として人生を考へる、そしてそれが自分の過去にふりかへつてくると、すべてが過ぎてしまつた、みんな死んでしまつた、何もかも空の空だ、といつたやうな断見に堕在する、そしてまた、血縁のものや、友人や、いろ/\の物事の離合成敗などを考へて、ついほろり[#「ほろり」に傍点]とする、今更、どんなに考へたつて何物にもならないのに――それが山頭火といふ痴人の癖だ。
落葉を掃いてゐるうちに、何となしにうれしくなつた、よいたよりがあるかも知れない、敬坊は今日こそやつてくるだらう、……ところが、悪い手紙
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