丹がかゞやいてゐた、無断でバケツチ[#「チ」に「マヽ」の注記]に一杯、よい水を貰うて戻る(倹約すれば一日バケツ一杯の水で事足るのだから幸である)。
待人はなか/\来ない、出たり入つたり、歩いたり佇んだり、さても待遠いことではある、待たれる身にはなつても待つ身にはなるなといふ、ほんに待つ身につらい落葉かなだ!
もう諦めて、コツ/\柚子の皮を刻んでゐたら、さうらうとして樹明老がやつて来た、病気といふものはおそろしい、あれほど元気な君が二三日の間にすつかり憔悴してしまつてゐる、それでも約を履んで来てくれたとは――なぜ敬坊は来ないのか、すこし腹が立つた――ありがたい/\、うれしい/\、しかも、生きの飯鮹をさへ持つてきてくれたのだ、この鮹まさに千両!
御馳走は何もない、橙湯をあげる、そして何かと話して、たそがれの草道で別れた、お互にたつしやでうまい酒をのむやうになりたい、至祷々々。
茶の花――石蕗の花
観音経――修證義
飯鮹は、煮るに酒も醤油もないから茄でゝをく、此地方の地口に、「ようもいひだこ、すみそであがれ」といふのがある、敬坊が来たら、酢味噌で食べさせて、うんと不平をいつてやらう。
今夜は
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