きやめない
[#ここで字下げ終わり]
暮れてから(あまり暗いので、それは勘で歩いたのである)学校へ樹明君を訪ねる(彼は今晩宿直だから来るやうにといつてきたのである)、例によつて一杯よばれる、風呂にもよばれる、そして雑誌にもよばれたといつてよからう、ひきとめられるまゝに泊る、帰つたところで仕方もないから、もつとも帰つた時にお茶なりと飲むつもりで、炭をいけ床をのべてきたのだが。
読みつゝ寝た、昆虫の愛情についての記事が面白かつた、かういふ科学記事を読んでゐると、人間執着[#「人間執着」に傍点]がとれてくる、動物としての自己他己観照が出来るやうになる。

 十月廿二日

眼がさめて、あたりを見まはすと変だ、変な筈だ、学校の宿直室に樹明君と枕を並べて寝てゐたのである、そして頭痛がする、胃の工合もよろしくない、昨夜飲みすぎたためか、硝子戸を密閉してをいたためか、そのいづれのためでもあらう、朝食をよばれる、麦飯と味噌汁と沢庵漬、器物が殺風景だつたが、それでもおいしく頂戴した、新菊と本とを貰つて戻る、金木犀の香がうれしかつた。
戻つてすぐ掃除、読経、それから炊事。
今日は郵便が来ない、新菊のおひたし
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