ことが出来たことは出来たが、――冬村君にはすまなかつた、何ともかともいひやうがない。
ぼうとして戻つてきた、手の火傷がいたい、茶碗をこはした、むしやくしやして寝てゐるところへ樹明君がやつてきた、とても起きあがれないので寝たまゝでむちやくちやを話す、君も或る事件でむしやくしやしてゐる、いつしよに飲みにゆかうといふのも断つて、そのまゝ悪夢を見つゞけた。……
かうして生てゐてどうするんだ、生きてゐる以上は生きてゐるに値するだけの生活(たとへそれはたゞ主観的であつても)を営まなければ嘘だ、もう嘘には倦いた、本当らしい嘘[#「本当らしい嘘」に傍点]をくりかへしては今日まで存らへてゐたが。……

 十月十七日

終日就床、昨日の飯を食べてゐた。
自己清算、それが出来なければ私はもう生きてゐられなくなつた、いさぎよく、自己決算[#「自己決算」に傍点]でもやれ(やれるかい)。
自殺はやつぱり嫌だ、嫌なばかりぢやない、周囲の人々に迷惑をかける、それは自分をごまかすばかりでなく、他人の好意に悪感を酬いるばかりだ。
死ぬにも死ねない、生きるにも生きられない、ヂレンマだ、こゝに宗教的、殊に禅の飛躍[#「禅の飛
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