八九が出来たら行乞[#「行乞」に傍点]に出かけやう、遊んでゐると、しらず/\我儘[#「我儘」に傍点]になつてゐる。
月を眺めてゐたが、咽喉がいけないので砂糖湯を飲み、厠にはいつてゐると、誰やら来たらしい、そのまゝ返事をする、やつぱり樹明君だつた、誰もがみんなさびしいのだらう。
持つて来て貰つた茶をがぶ/\飲んで別れる、いつもの癖で、送つて出て、月を見あげながら尿する。
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・土の虫のちぎられたまゝ土にもぐる
月にむいて誰をまつとなくくつわむし
ふけてあぶらむしがはふだけ
・住みついて煤のおちるにも(改作)
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十月十六日
夜あけのしぐれはさびしくわびしく身にしみた。
けさの空はうつくしかつた、月はもとより、明星のひかりが凄艶、いや冷徹であつた。
かまどを焚いてゐて虫――こうろぎの声をきいてゐると、虫も私も老いたりの感がある、それとおなじやうに、お経をあげてゐると、虫の声も私の声も寂びてきたと思ふ。
苦茗をすゝる前に、まづ最初の一杯を観世音に献じる、そして仏といふものが、したしみふかい存在[#「したしみふかい存在」に傍点]として示現する
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