服屋さんが、戸惑ひしたのだらう、御用はございませんかといふ、見るだけでも見てくれといふ、嫌になつてしまう。
夕時雨、あの音には何ともいへないもの[#「何ともいへないもの」に傍点]がある。
まことにしづかである、今にして思へば、私は川棚温泉で拒まれてよかつた、とてもあそこでは落ちつけなかつたらうし、また、こゝほどしんみりしなかつたらう。
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・ゆふ空の柚子二つ三つ見つけとく
・わたしひとりのけふのをはりのしぐれてきた
・寝覚まさしく秋雨であつた(即興)
[#ここで字下げ終わり]
夜中にふと眼がさめたら雨がふつてゐた、それはしよう/\とした秋雨だつた、そこでおのづから此一句がある。――
十月十五日
けさは早かつた、すべての行事がすんでもまだ明けなかつた、おちついて読書した。
時々鉄砲の音が聞える、今日から狩猟解禁、鳥や獣の受難時季が来たのである。
朝の鐘声はよいな、鶏の声よりも。
出勤前の樹明来庵、わざ/\胃の妙薬を持つてきて下さつたのである(白米ですよ!)。
どうも咳が出て切ないから昼寝、そしたら嫌な夢。
茶の花がいちりん、ほんとうにいちりん咲いてゐた、さつそく
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