、こゝにおちつくほかはない
    □
 虫も夜中の火を燃やしてゐる
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 十月六日

夜が長くなつた、朝晩はなか/\寒い、空の高さ、星の美しさはどうだ、今朝などは、まつたく雲がなかつた。
今日も土いぢり、芽生えるものを味ふ。
油虫よ、殺したくはなかつたけれど。――
秋風を感じた(心よりも身に於て)。
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 ひとりごといふ声のつぶれた
・お寺の鐘も、よう出来た稲の穂
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 十月七日

任運自在、起きたい時に起き、食べたいだけ食べる。
さびしさには堪へうる私だけれど、うるささにはとても/\。
毎日待つてゐるのは、朝は郵便、昼は新聞、夕は樹明、そして夜は!
午前中、秋晴半里を逍遙した、彼岸花はすつかりすがれた、法師蝉もあまり鳴かなくなつた、たゞ柿が累々として赤くうれてゆく。
四辻におもしろい石地蔵尊が立つてゐられた(ダイカンヂゾウ!)。
樹明兄を往訪して、明日の山口行を取消さうと思つてるところへ来訪、残念だけれど、こんなに声が嗄れてゐてはとても行乞は出来ないから。――
いよ/\煙草の粉末までなくなつた、酒屋へは無論、湯屋へ
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