ひとりでかへるぬかるみ
月夜、あるだけの米をとぐ
空のふかさは落葉しづんでゐる水
石があれば草があれば枯れてゐる
お月さまが地蔵さまにお寒くなりました
水音のたえずしていばらの実
うしろから月のかげする水をわたる
しぐるる土に播いてゆく
或る若い友
落葉を踏んで来て恋人に逢つたなどといふ
ぽきりと折れて竹が竹のなか
月がうらへまはれば藪かげ
とぼしいくらしの屋根の雪とけてしたたる
ほいないわかれの暮れやすい月が十日ごろ
街は師走の八百屋の玉葱芽をふいた
ことしもこんやぎりのみぞれとなつた
なんといふ空がなごやかな柚子の二つ三つ
ここにかうしてわたしをおいてゐる冬夜
焚くだけの枯木はひろへた山が晴れてゐる
病めば鶲がそこらまで
よびかけられてふりかへつたが落葉林
雪へ足跡もがつちりとゆく
酒をたべてゐる山は枯れてゐる
しんみり雪ふる小鳥の愛情
遠山の雪も別れてしまつた人も
雪のあかるさが家いつぱいのしづけさ
藪柑子もさびしがりやの実がぽつちり
枯れてしまうて萩もすすきも濡れてゐる
椿のおちる水のながれる
寝ざめ雪ふる、さ
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