て代掻く馬は叱られてばかり

はれたりふつたり青田になつた

草しげるそこは死人を焼くところ

朝露しつとり行きたい方へ行く

ほととぎすあすはあの山こえて行かう

笠をぬぎしみじみとぬれ


  家を持たない秋がふかうなるばかり
 行乞流転のはかなさであり独善孤調のわびしさである。私はあてもなく果もなくさまよひあるいてゐたが、人つひに孤ならず、欲しがつてゐた寝床はめぐまれた。
 昭和七年九月二十日、私は故郷のほとりに私の其中庵[#「私の其中庵」に傍点]を見つけて、そこに移り住むことが出来たのである。
  曼珠沙華咲いてここがわたしの寝るところ

 私は酒が好きであり水もまた好きである。昨日までは酒が水よりも好きであつた。今日は酒が好きな程度に於て水も好きである。明日は水が酒よりも好きになるかも知れない。
「鉢の子」には酒のやうな句(その醇不醇は別として)が多かつた。「其中一人」と「行乞途上」には酒のやうな句、水のやうな句がチヤンポンになつてゐる。これからは水のやうな句が多いやうにと念じてゐる。淡如水――それが私の境涯でなければならないから。
[#地から1字上げ](昭和八年十月十五日、
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