あがり

うつむいて石ころばかり

若葉のしづくで笠のしづくで

ほうたるこいこいふるさとにきた

お寺の竹の子竹になつた

松かぜ松かげ寝ころんで

明けてくる鎌をとぐ

ひとりきいてゐてきつつき

かたむいた月のふくろうとして

     川棚温泉

花いばら、ここの土とならうよ

待つてゐるさくらんぼ熟れてゐる

山ふところのはだかとなり

山路はや萩を咲かせてゐる

ここにふたたび花いばら散つてゐる

朝の土から拾ふ

石をまつり水のわくところ

いそいでもどるかなかなかなかな

山のいちにち蟻もあるいてゐる

雲がいそいでよい月にする

朝は涼しい茗荷の子

いつも一人で赤とんぼ

旅の法衣がかわくまで雑草の風

     川棚を去る

けふはおわかれの糸瓜がぶらり

ぬれるだけぬれてきたきんぽうげ

うごいてみのむしだつたよ

いちじくの葉かげあるおべんたうを持つてゐる

水をへだててをなごやの灯がまたたきだした

かすんでかさなつて山がふるさと

春風の鉢の子一つ

わがままきままな旅の雨にはぬれてゆく

     帰庵

ひさびさもどれば筍によきによき

びつしより濡れ
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