飯ばかりの飯である

まつたく雲がない笠をぬぎ

墓がならんでそこまで波がおしよせて

酔うてこほろぎと寝てゐたよ

     昧々居

また逢へた山茶花も咲いてゐる

雨だれの音も年とつた

見すぼらしい影とおもふに木の葉ふる

     緑平居 二句

逢ひたい、捨炭《ボタ》山が見えだした

枝をさしのべてゐる冬木

物乞ふ家もなくなり山には雲

あるひは乞ふことをやめ山を観てゐる

     述懐

笠も漏りだしたか

霜夜の寝床がどこかにあらう

     熊本にて

安か安か寒か寒か雪雪

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昭和六年、熊本に落ちつくべく努めたけれど、どうしても落ちつけなかつた。またもや旅から旅へ旅しつづけるばかりである。
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     自嘲

うしろすがたのしぐれてゆくか

鉄鉢の中へも霰

いつまで旅することの爪をきる

     呼子港

朝凪の島を二つおく

     大浦天主堂

冬雨の石階をのぼるサンタマリヤ

ほろりとぬけた歯ではある

寒い雲がいそぐ

ふるさとは遠くして木の芽

よい湯からよい月へ出た

はや芽吹く樹で啼いてゐる

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