病院に多々桜君を見舞ふ

投げ※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]しは白桃の蕾とくとくひらけ

     多々桜君の霊前にて

桃が実となり君すでに亡し

うららかにボタ山がボタ山に

     湯田名所

大橋小橋ほうたるほたる

このみちをたどるほかない草のふかくも

     妹の家

たまたまたづね来てその泰山木が咲いてゐて

泊ることにしてふるさとの葱坊主

ふるさとはちしやもみがうまいふるさとにゐる

うまれた家はあとかたもないほうたる

     温柔郷裏の井子居

きぬぎぬの金魚が死んで浮いてゐる

     華山山麓の友に

やうやくたづねあててかなかな


 孤寒[#「孤寒」に傍点]といふ語は私としても好ましいとは思はないが、私はその語が表現する限界を彷徨してゐる。私は早くさういふ句境から抜け出したい。この関頭を透過しなければ、私の句作は無礙自在であり得ない。
(孤高[#「孤高」に傍点]といふやうな言葉は多くの場合に於て夜郎自大のシノニムに過ぎない。)

 私の祖母はずゐぶん長生したが、長生したがためにかへつて没落転々の憂目を
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