柿の葉はうつくしい、若葉も青葉も――ことに落葉はうつくしい。濡れてかがやく柿の落葉に見入るとき、私は造化の妙にうたれるのである。

  あるけば草の実すわれば草の実
  あるけばかつこういそげばかつこう
 そのどちらかを捨つべきであらうが、私としてはいづれにも捨てがたいものがある。昨年東北地方を旅して、郭公が多いのに驚きつつ心ゆくまでその声を聴いた。信濃路では、生れて始めてその姿さへ観たのであつた。

  やつぱり一人がよろしい雑草
  やつぱり一人はさみしい枯草
 自己陶酔の感傷味を私自身もあきたらなく感じるけれど、個人句集では許されないでもあるまいと考へて敢て採録した。かうした私の心境は解つてもらへると信じてゐる。
[#地から1字上げ](昭和丁丑の夏、其中庵にて 山頭火)


   銃後


[#ここから5字下げ]
天われを殺さずして詩を作らしむ
われ生きて詩を作らむ
われみづからのまことなる詩を
[#ここで字下げ終わり]

     街頭所見

日ざかりの千人針の一針づつ

月のあかるさはどこを爆撃してゐることか

秋もいよいよふかうなる日の丸へんぽん

ふたたびは踏むま
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