いと芋が落ちてゐたので芋粥にする

しぐれしたしうお墓を洗つていつた

秋ふかい水をもらうてもどる

ひとりの火をつくる

生きてしづかな寒鮒もろた

草はうつくしい枯れざま

藁塚藁塚とあたたかし

     樹明君に

落葉ふみくるその足音は知つてゐる

やつぱり一人はさみしい枯草

落葉してさらにしたしくおとなりの灯の

風の中からかあかあ鴉

葉の落ちて落ちる葉はない太陽

何事もない枯木雪ふる

ことしも暮れる火吹竹ふく

お正月が来るバケツは買へて水がいつぱい

     昭和十二年元旦

今日から新らしいカレンダーの日の丸

     自画像

ぼろ着て着ぶくれておめでたい顔で

あつまつてお正月の焚火してゐる

雪ふる食べるものはあつて雪ふる

みぞるる朝のよう燃える木に木をかさね

しみじみ生かされてゐることがほころび縫ふとき

いつも出てくる蕗のとう出てきてゐる

     緑平老に

かうして生きてはゐる木の芽や草の芽や

雪ふれば酒買へば酒もあがつた

ひらくよりしづくする椿まつかな

てふてふうらうら天へ昇るか

     自戒

一つあれば事足る鍋の米をとぐ
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